スタッフブログ
ヒナタノオト日誌

木を豊かに感じる漆器

2022.12.13

漆の器を制作される平井岳さん、綾子さんご夫妻の展覧会が始まりました。

陶器、ガラス、漆器。器の素材はさまざまです。
それぞれに素材の魅力がありますが、漆の魅力の一つはその温かみのように思います。
手に持つとき、口に触れるときに感じるなめらかな柔らかさ。
その感触が心を落ち着かせ、穏やかな気持ちにしてくれます。

平井さんが作るのは、木でできていることが感じられる器。
漆器は、木地に漆を塗り重ねて作られます。
その過程で、少しずつ木肌の色に漆の色が重なっていきます。
完成形でも木の気配を感じられるような器を制作されている平井さん。
溜塗りのお椀などは、漆の層を通して木目がほのかに分かります。

岳さんは塗りのお仕事に加えて、漆の樹液を採取する「漆掻き」もされています。
漆器に利用される漆は、漆の木に傷をつけることで流れ出る樹液。
木が傷口を塞ぐために分泌するものです。

採取時期は6月から8月ごろ。
この間、岳さんは山に入って漆の樹液を採取します。
(漆のお話については、店主稲垣による『婦人之友』さんの連載、
「おばあちゃんの食器棚」もぜひご覧ください。
店頭でもお読みいただけます。)
現在、漆の多くは海外からの輸入でまかなわれ、国産の漆はごくわずか。
平井さんは、ご自身で採取された漆を作品の仕上げの塗りに使用されています。

はじめは少し鈍い光を帯びている漆の器。
使って、洗って、拭いて、を繰り返しているうちに、
つやのある表情になっていきます。

汁椀、粥椀、平椀などは、お味噌汁やご飯をいただくほか、
これからの季節なら、お鍋の取り分け鉢やお雑煮椀としても。
熱の伝わり方がやさしいのもうれしいところです。

 


今回の展覧会では、溜塗りや蒔き地の作品のほかに、
拭き漆の作品も。
制作された作品は盃や小皿。
小皿の樹種は様々で、ウォルナット、栗、黒柿など。
木目がしっかりと感じられる仕上がりです。
拭き漆の作品に使われる漆は、採取した樹液を濾して不純物を取り除いた生漆。
溜塗りなどに使用される漆は「くろめ」と呼ばれる行程を経て、
水分が除かれて粘度を増したものですが、
それに比べると少しさらりとしているそうです。

また、樹液の採取を終えた漆の木を使って制作された板皿は、
漆を大切に思われている平井さんご夫妻ならではの作品です。

お正月のあらたまった食卓にも、何気ない日常にも寄り添ってくれる平井さんの漆の器。
この機会にぜひご覧くださいませ。

文  瀬上尚子
写真 中川碧沙