ソラノノオト
作品展に寄せて

沖澤真紀子さんの器

2023.07.28

久しぶりに会った真紀子さんの器には、伸びやかな絵が描かれていました。
草、花の大胆な線と面。
器の絵付けというよりも、画用紙に思うままに描かれたような素直な絵。
どこか子どもが描く素直な絵を想わせるような草花が、器というステージに息づいているようでした。

MACARON
沖澤真紀子さんの工房名、マカロン。
マカロンのような少しくぐもったパステルトーンの器が印象的な陶器づくりをなさっていました。
ありそうでなかなか見ないその色調は、所謂絵の具のチューブから出てきた色ではなくて、釉薬を繊細に調合して生み出された真紀子さんならではの色合いでした。
可愛らしいけれど、子どもっぽくはない独特な色調で展開された作品群。

数年前、大きな病気に罹られて、真紀子さんはしばらく陶芸を休ばねばなりませんでした。
その闘病の日々のことは、ここに軽々しく書くことはできませんが、真紀子さんご本人とご家族が向かい合った深い時間の先に、明るい光が射しこんで、制作が再開されたのでした。

作りたいものを作ろう。
描きたいものを描こう。

その想いを心に広げて土に向かってから、この草花が描かれ始めました。

今、真紀子さんの器からは、よろこびを感じます。
一度離れなければならなかった制作から戻ってこられた喜びが、草花の伸びやかな息吹となって描かれているのでしょうか。

草花の色も絵の具ではなく、釉薬の調合から生まれています。
マカロンカラーの釉薬の地色と草花の色。
個性的な色調な器もありますが、これがどうして、料理を盛るとうまい具合に受け止めてくれるのです。
いつものお惣菜も新鮮な表情を見せてくれて、箸が進むような。

真紀子さん自身はあえておっしゃらないけれど、私にはいのちの喜びが器の中で微笑んでいるように感じるのです。
高笑いではなくて微笑み、というところが真紀子さんの風情。
その微笑みが、生きる糧である料理を健やかに受け止めているのでしょうか。

中皿、大皿には日々のおかずを盛って取り分けて。
あるいは、ひとりのメニューを楽し気に盛って。

ほっとひと息のブレイクタイムには、草花の微笑みを感じながら。

生きているって素晴らしい。
真紀子さんの器を見て、触れて、使うたびに、そんなことを思うのです。
作り手の深く素直な喜びが、微笑むように満ちている器。
ぜひ、新たにお使いになってみてください。

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