スタッフブログ
ヒナタノオト日誌

恋の奥行き

2024.02.21

和紙造形作家にしむらあきこさんの2年ぶりの展覧会、
「恋する紙宝石」展が始まりました。

にしむらさんが「手しごとを結ぶ庭」に寄稿してくださった文章、もうお読みいただいたでしょうか。
読んでから展覧会を見ても、展覧会の後に文章をお読みになっても、どちらでもきっと心を動かされる展示です。
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「恋」。
言葉でわかっているつもりでも、その奥行きを意識したことはありませんでした。
会場に展示されたアートパネルや額装作品、そして、言葉と作品が響き合う手製本の『恋する紙宝石』。
どれも平面のはずなのに、そこには確かに「恋」という多面体が奥行きを持って存在しています。
はじけるような明るい色彩、やわらかな甘い色調、そして静かな沈んだ色、どれも恋が持つ心の色。
展示されたそれぞれの作品が、記憶の中にある感情の欠片をかすかに震わせる。

特に、手製本『恋する紙宝石』。
お時間の許す方には、ぜひ読んでいただきたく思います。
展覧会そのものを、ぱたん、と1冊の本に閉じ込めたような世界。
ギャラリーには、椅子に腰かけてゆっくりと本をお読みいただけるよう、お席をご用意しました。
ページをめくり言葉を追いながら、心の揺れや色彩を感じる時間をあじわっていただけますように。
そして、にしむらさん自らによる手製本のすばらしさもその魅力のひとつ。
本の世界観を感じさせてくれる、表紙や綴じ糸の色。
綴じ糸の縫い目はそれ自体が美しい文様のよう。
本そのものが一つの作品であるということを感じます。

展覧会最初の週末には、東京出張中でたまたまお立ち寄りくださった方、以前からのにしむらさんのファンの方など、みなさま時間をかけて言葉と形が織りなす作品を味わっていました。

読書のためのテーブルには、心に差し込む色とりどりの光のような空間展示が。
こちらも、この空間のためににしむらさんが考えてくださったもの。
展覧会だからこそ味わえる空間です。
設営の際には、ギャラリー奥の窓から光が差し込むわずかな時間、自然光が見せてくれた和紙を通した光の美しさに、思わずため息がもれました。
会期中もそんな光景をご覧いただけるでしょうか。

言葉と色と形。
にしむらあきこさんにしか生み出せない世界。
心の揺らぎを繊細に呼び起こす作品を、ぜひご覧くださいませ。

文 :瀬上尚子
写真:中川碧沙