思想工房
作り手との対談

今回の作り手

加藤キナさん

1972年岩手県生まれの牧さんと、1973年長野県生まれのなほさん夫妻によるユニット。
2003年より「加藤キナ」として活動を始める。
近年は駆除された鹿皮の活用を中心に制作。
「TOUBOKKA」など日本独自の革袋物の制作も進める。
東京都在住。
稲垣とは、2014年に「工房からの風」を通じて出会い、企画展などへの出品を依頼。
2018年、2019年には共にデンマークに滞在して、日本の手工藝展を開きました。

1 タイトルは、鳥の歌

2020.04.18

稲垣早苗
キナさん、今回のタイトル、どのようにしましょう。
とお尋ねしたら、すぐに「鳥の歌」っておっしゃいましたね。
このタイトルに込められた想いや、その背景を教えてくださいますか。

加藤キナ
ヒナタノオトさんでの個展が決まった際、
「鳥の歌」というタイトルでやらせていただきたいと、自然に浮かんできました。

一昨年、昨年と2年続けて、早苗さんの企画したデンマークのイサガーツアーに、夫婦ふたりで参加しました。
その時、デンマーク最北端の地 Skagenスケーエンでは、
画家のMichael Ancherミケール・アンガ夫妻の家も訪問して。
そこで目にしたドアに描かれたさまざまな鳥たち。
訪ねた9月でさえ、山育ちの私は灰色に波打つ海の迫力に胸の鼓動が早くなりました。
増してや冬の厳しさはいかばかりだろう‥そう考えた時、
彼らが家のドアに鳥たちを住まわせた理由が少しわかるような気がしたんです。


(※ 画像1)

稲垣
キナさん、デンマークの音は鳥の声、ってお話ししていましたね。
平らな土地の上に広がる青空。
その空いっぱいに渡る鳥の声が、おふたりの心にも広がっていたんですね。

加藤
それとね。
ヒナタノオトって、不思議な名前、言葉ですよね。
日向の音、って何だろう?
そう考えたら、それは私たちにとって、鳥の歌声だったんですね。
日々こころを和ませ、時に勇気づけてくれる音だって気づいたんです。
ヒナタノオトさんでの展覧会ですから、そうだ、鳥の歌だって。

稲垣
そうだったんですね。
「ヒナタノオト」は、どういう意味ですか?
って、よく聞かれます。
いろんな意味を込めたのですが、一番はちょっとプライベートな話なんですが・・。
ヒナタノオトを開く前、弟を白血病で亡くしたばかりで、
最期の頃はつらい闘病を送っていたんですね。
そんな時、幼い頃に姉弟で縁側で日向ぼっこをしていた時間がとてもなつかしくって。
陽だまりの中で目をつぶると、肌色を通して光を感じるような不思議な景色があって、全身がほぐれてあったかくって。
そんな景色の中で聴こえる音って、どんなに幸せな音だろう。
そんなことをふんわり考えていたんです。
そこから飛躍?するのですが、私が仕事で関わりたいものは、そんな幸せな音と共にあるものがいいなぁ。
工藝作品を紹介するのでも、日向の音がふさわしい人の手から作られたものにしようと、漠然と思ったんです。
今、キナさんの「鳥の歌」にこめた想いにも、どこか響き合うもの、感じています。
ちょっと脱線してしまって、ごめんなさい。

ところで、デンマークではさまざまなアーティストや文化からお二人の世界が広がったと思うのですが、その中で、カレン・ブリクセンのことをお聞かせくださいますか?

加藤
ええ。初めて行った年に、滞在した TverstedSkole※で、工房をもつJesさんの製本ワークショップを受けたんですね。
製本が出来上がったあとに、Jesさんが参加者に一枚ずつ紙をくださって、
私には、カレン・ブリクセンのblomster(花)という本の表紙のものだったんです。
そして、その滞在中、元体育館だった場所で見せていただいた映画が「バベットの晩餐会」というもの。
その原作者もカレン・ブリクセンで、二つの点がひとつにつながったのでした。

稲垣
「バベットの晩餐会」は、とてもとても好きな映画です。
あの晩は、体育館でツアーの皆さんと一緒に何度目かの鑑賞ができましたけれど、
ものづくり、作家の方々と共に見ながら、皆さんはどんな風に感じているんだろう、と思っていました。
食の芸術家ともいえるバベット。
おいしいものは人を幸福にする、という想いは、美しいものは人を幸福にする。
という気持ちと通じていて、きっと皆さんに響いているんだろうなと。

加藤
「最高の仕事をできないことが、芸術家にとっての貧しさなのかもしれません」
私はそんなメッセージを受け取りました。
お金を使い果たしたバベットを心配する老姉妹たちに向かって、
「芸術家にとって、最善を尽くさせてもらえないことが貧しいのであって、私は貧しくはない」
と言い切ったバベットに、自分たちの仕事への想いを確かにするような気持ちでした。

帰国後、カレン・ブリクセンのことを調べるうちに、コペンハーゲン郊外の住居跡が博物館として公開されていることを知りました。
そのお庭も素晴らしいことなどを知って、昨年は自由行動の日に夫婦ふたりで訪ねてみました。
すばらしい空間の中、Jesさんが製本された「Blomster」も販売されていて、うれしくなって買い求めました。
今回、お客様をお迎えしての通常の展覧会でしたら、皆さんにも見ていただこうと会場にも置いてきました。

稲垣
ええ、確かにお預かりいたしました。
黄緑色の美しい本。
いつか、また機会を創ってこのご本をはじめ、キナさんたちの心を奏でた美しいものたちをぜひ見ていただきましょう。
そして、バベットの晩餐会の肝のストーリーは、今回の「無観客展覧会」の構成にもつながっていきますね。
その話は、また、あとでいたしましょう。

次に、今回の作品についてお話ししてくださいますか。

※ TverstedSkole
デンマークユトランド半島北部にある町Tversted。
その町の廃校となった校舎を、ニット作家のマリアンネ・イサガーさんが運営する施設。
アーティストたちの工房、滞在型工房(アーティストインレジデンス)、ギャラリー、カフェ、ショップ、宿泊施設がある。

※ 画像1 は友田成子様から拝借いたしました。ありがとうございます。

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