店主ブログ
日々の芽吹きの記録

楽園

2020.01.11

今日から始まる佐々木ひとみさんの作品展。
タイトルは「楽園」。

ここ数年、年明け最初の展覧会はひとみさんにお願いしてきました。
タイトルはいつも「楽園」。
そのわけをあらためてみたくて、この文を書き始めています。

 

 

昨年秋、ひとみさんも加わった11組がデンマークで展覧会をしました。
そのツアーの最終日、希望者だけで訪ねた場所があるひとつの「楽園」でした。

楽園の主は「Tage Andersen」。
「テーエ・アヌスン」さんのフラワーショップ兼美術館。

 

 

コペンハーゲンの中心部にあるその場所は、何度も通りがかって外から覗いたことがありました。
ウィンドー越しに独特な美しさをながめながらも、ドアは閉まっていて気軽に入れるような雰囲気ではありません。
聞けば入場料が必要だと。
どのように入ったらよいのかわからぬままに今まで機会を得ずにいました。
今回、ぜひに行ってみたいというKさんのリクエストのもと、ようやく扉の中に入ったのでした。

 

 

テーエさんは不在でしたが、長年のパートナー、モンツさんが私たちを迎えてくださいました。
穏やかでふかぶかとした優しい声。
螺旋階段でつながったひとつの空間に、テーエさんがこの空間を作った想い、大切にしていることがモンツさんの言葉となって、音楽のように響き渡っていきました。

 

 

お話しの後、モンツさんが花のお仕事を続けられる中、私たちはその楽園を探検するようにじっくり回ったのでした。

時折鳥の鳴き声が渡る空間には、おそらくテーエさんが蒐集してこられた花に添う錆びて華やかな味わいのある品々が置かれてありました。
花を束ね、花を生かす日々の営みの中で作り上げられた空間。
それは時の重なりの中にあって、まさに創造者の楽園でした。
ああ、これでいいんだ、これがいいんだ。
共に訪ねた作り手たちの表情がそう響きあっていました。

 

 

初めてひとみさんのアトリエを訪ねたのは、御徒町のデザイナーズビレッジにいらした頃。
入り口のシェルフには、セミの抜け殻やかなり枯れ色の進んだドライフラワーなどがあって、
愛らしい表情のひとみさんの印象と一瞬つながらなかったことを覚えています。

その後、お会いすることが重なる中で、油絵を専攻していらしたこと、
ベルギー アントワープ王立芸術アカデミーでジュウリーを学ばれたことを知りました。
表現の道を模索しながら描いた絵を見せていただくと、
そこに描かれた動物たちの愛らしい中にも哀しみを湛えた表情と出会いました。
草花や動植物が濃密に描かれた世界には、ひとみさんの深い泉があるのだと感じたのでした。

 

 

可愛らしいアクセサリーもひとみさんの世界の中にあるけれど、
それだけではない世界を見せてほしい。
折々、そんなことを伝えてきました。
全国の展示で活躍するひとみさんには、なかなか余白がなさそうだけれど、
誰かのためではないものが、結果的には誰かの心を打つ。
ひとみさんの楽園にあるさまざまな果実が見たい。
そんな願いがこのタイトルになったのでした。
 

 

Tage Andersenのこの場を訪ねて感じたこと。

それは、センスがよいとかということなどではなく。
芯にあるものを信じて追いかける。
そして追いかける時間の中で出会った、人やものや思想と築かれた時間の集積が、この楽園なのかもしれません。
貫くことには、孤独や逆境もあったことでしょう。
けれども、愛を持ってこの空間が産み出されたことは、その場にいるだけで肌から感じられることでした。
そのような楽園を共に訪ねられたこと。
この時間は滋養になって、いつかひとみさんの創作にきっと現れる。
そんなことを思ったのでした。

 
Tage Andersenのホームページはこちらです。
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いつかスウェーデンにある彼らの庭園を訪ねたいという夢がひとつ増えました。