スタッフブログ
ヒナタノオト日誌

季と器

2020.04.08

祖母と暮らしていた25年ほど前。
その頃、実家の一階の角部屋は『おばあちゃん家』と呼ばれ、子供には少し重い襖を開けて
「おばーちゃーん、あそぼー。」「ほな花札しょかー。」といいながら炬燵のテーブルを返し、
花札を並べる祖母の肩越しに、庭のたわわに実った金柑の実が黄色く色づきはじめているのが見えた。
祖母が越してきた時に植えたものだ。
他にも、祖母と一緒にやってきた神棚に、お供えするための榊も植っている。
植木鉢にはアロエ。それが祖母が育てていた植物の記憶。
金柑は祖母と父の好物で、榊は神様へ、アロエは傷口にいいから。
今思うと、とても実用的なセレクトだな。

私の目線に気づいた祖母は、「まだシブいんとちゃうかな」といい、うっすら開けた窓から片手だけ出して、それでもオレンジの濃いものを選んでくれた。
「揉んだら甘なるで」という言葉を信じて掌で高速に揉みほぐし(早く食べたいから。)ぽんと口にほおりこんだ。
口いっぱいに広がり鼻から抜ける、柑橘の香り。種を噛まないように慎重に歯をあてると酸味と甘味の後からくるほろ苦く野性的な味がした。

祖母は、金柑の実を蜂蜜づけにしていた。
記憶の中の祖母の味。
風邪をひいたときや、喉の調子を整えるときいいんだよ。と教えてくれた。
子ども心に優しい味なんだなと思った。

ふと思い出した、遠い遠いあたたかな記憶。
これからも守りたい家族との大切な思い出。

窓越しにぼんやりと今年の金柑の木を眺める。
祖母が故郷の和歌山に戻っても
金柑は毎年実り、年々大きな木へと成長してくれている。

そうだ、せっかく家にいるのだから食べごろの金柑で何か作ろう。
作り方はシンプルに、コンポートがいいかな。

金柑は種をとり、白ワインと水、砂糖、レモンをきゅっと絞り、20分ほどコトコト煮込みます。


いつもの朝食、いつもの器、いつものパンとヨーグルト。
田屋道子さんのカフェオレボウルには季節のフルーツやジャムとヨーグルトを。
富井貴志さんの栗のリム皿にはカリッともっちりを楽しめるトーストを。
日々の暮らしこそ美味しく楽しく過ごしたい。
そんな時、心を込めて丁寧に作られた、作り手によるお気に入りの器とともに過ごすことができたらなら。


晴れた朝には窓を開けて、心地よい風が渡り気持ちも爽やかに。

サラダの朝も。
コールスローサラダに、薄くスライスした金柑を添えて。
縁にほどこされた飴釉が白の器とお料理をひきたてます。


ほっと一息のひとときも。
田屋さんの器は馴染みます。

お家で過ごす時間。
巡る季節の恵を感じながら、お気に入りの器で、深呼吸の時間を過ごしてみませんか。
扉を閉めて明るい未来がやってくるなら、また笑顔でお会いできる日まで。
皆様の日常が、お健やかであたたかなものでありますように。

愛でる愉しみにも。
お花を一輪縁に添わせて。

中川碧沙