ヒナタノオト
作品展に寄せて

Q1
et craftという工房名で漆器の制作をする平井岳さんと綾子さん。
今展には、どのような作品を出品くださいますか?

A1
自ら採取した漆を使って器を作っています。
顔料の入っていない漆を塗り重ねた溜塗りのお椀類やお皿、漆を掻き終えた木を使った板皿等を出品します。
普段使いから少し特別な日のご馳走まで、食卓を末長く暖かに彩る漆器をご提案します。

Q2
ご両親、またはおじい様、おばあ様から引き継いだ愛用品があれば教えてください。

A2
6年程前に私の祖母からもらった包丁です。
特別上等な物ではないと思うのですが、使いやすいサイズでなんでもこれ一本で済ませてしまっています。
いつも仕事の刃物研ぎのついでに岳に研いでもらっています。
今となっては包丁を持つ機会も減ってしまった祖母ですが、昔はよく刃物研ぎをしていたようで岳はよく祖母と研ぎ方について話をしています。
その話になると決まって『私は刃物研ぐのはうんと上手いんだ』と言っていますが、岳は内心自分の方が上手いと思っているそうです。
ー綾子ー

Q4
『おばあちゃんの食器棚の中で印象に残ったお話を教えてください。

A4
第2話 漆のご飯茶椀での
『生々しい樹木の命と、それを活用しようと模索し続けてきた人の営みの果ての姿なんですの。』
という一節で、自分の中では器を作ったり山で仕事をするということが日常の事なのですが、よくよく考えるとずっと昔から器を作り続けていた人々の上に成り立っている仕事なんだと改めて感じました。

今の仕事で独立したての頃は何かもっと効率的な作り方はないのか、この方法ではどうだろうかと色々なことを考えていましたが、ここ最近は修行時代にお世話になった諸先輩方から教わってきた昔からの仕事のやり方が一番だなと思う時が多々あります。
先人達が模索してきた営みの姿に少しでも近づけるように日々仕事に励んでいきたいと思うそんなお話でした。
 ー岳ー

Q5
自由学園明日館のちなんだエピソードがありましたら、お聞かせください。

A5
元々大正から昭和初期頃の建築物が好きなのですが、明日館には大学生の頃に建物全体を使った展示会のお手伝いさせて頂いた機会がありました。
日本全国から作り手とそれを伝える人が集まった会場は穏やかな空気とものづくりへの真剣さが溢れる理想郷のようで、かっこいい大人達の仕事を目の当たりにした私は大変なカルチャーショックを受けました。

それと同時に、明日館の持つ包容力と『よいもの(場所)づくりの精神』は時間を超えて響合うのだなぁ…と感動したことを覚えています。
それから10年の時が経ち、今度は作り手側として明日館に立てることに不思議な縁と嬉しさを噛み締めています。
ー綾子ー

 

綾子さんは、漆芸を学ぶ大学生だった頃、明日館でボランティアスタッフとして働いたことがあって、
「いつかこの空間に自分の作品を展示してみたい」と心に夢を描いたのだそうです。

今回、この展示のことをお話しした時、綾子さんの頬が瞬く間に上気して輝いたのが印象的でした。
夢が叶った喜びにあふれた展示、きっとすばらしく力のこもったものになりますね。

大野八生さんの絵は、岳さんの漆掻きの映像を基に許可をいただいて描いていただいたものです。
会場では、この映像もご覧いただけますので、漆や漆掻きのお話をぜひお聞きになってみてください。

それにしても、上の炊き立てごはんを盛ったお椀の画像。
ほんとうに美味しそうですね!

平井岳さん、綾子さんは、両日在館くださいます。

おふたりのHPはこちらになります。
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