ヒナタノオト
作品展に寄せて

「火」という言葉に、昨年の「工房からの風」の中で出会いました。

自分を見つめ過ごした日々を重ね、庭に立った2日間を経て、この言葉は僕にとって大切なキーワードになりました。
火の回の一人で良かったと心から思っています。

一つ一つの経験や、出会いが心の火を形作っていく。
そんなことを感じる経験でした。

ものを作り続けていく日々を支え、心を照らしてくれる灯りの一つになるような時間でした。

それでも、火がゆらゆらと姿を変えるように、心の火はいつもゆらめき、揺れながら、その時々で形や勢いを変えているのを感じています。

本当はもっと揺るがなくありたいと思うし、やはり心許ないのだけれど、その姿をしっかり見つめていれば、それで良いんだと思います。

本展示に向けて、再びその火を見つめながら、目の前にある一つを形にしていきたいと思っています。

「工房からの風」においては、自分の心に響くものが、人にも響くのだということを感じました。
それは僕にとっては木にしっかりと向き合えて形にできたものかと、そして本当に一つに向き合えていたのかどうかと思い至りました。
本展のお話を頂いた際に、自分らしくとお声をかけて頂いたことで、目の前の一つを、ちゃんと一つを作るように向き合いたいと思いました。

結果的に木によって形が違ったり、同じものがあまりなかったりするかもしれません。
手で作ること、一つを作ることを、今は大事にしていきたいと思っています。

木工:山梨:片田学

片田さんはものを考える人。
ものを考えない人がいるか?といえば、皆なにかは考えているかと思いますが、とくに考えている人。
というのが私の印象です。
その考えと、素敵だな、いいな、と思う感覚の確かさから生まれる片田さんの形を、私は信頼しています。

作家の生み出す形。
私はそのすべてを信頼はしていません。
どこかの何かを、考えなく真似て生み出された形のなんと多いことか。
そのような中にあって、自分の核から生まれてくる形がある作家は、長く制作ができるのだとこの仕事を続けながら私も学んできました。

片田さんは、なかなかに慎重で、その点はきっと手ごわくって、他者がいいね!と言ってもなかなか鵜呑みにはしない感じです。
佳き使い手とたくさん出会って、佳き作り手とたくさん交流をして、その手に生るものをもっと信じてほしいなぁ。
今回、主に一点物のおおぶりな木の器を前にして、ますます信頼を深めた私は、改めてそう思ったのでした。
今展が、これからの実りに続いていきますように。

稲垣早苗