ヒナタノオト
作品展に寄せて
「猫に真珠」展出展作家有志の方から、猫にまつわるショートストーリーをご寄稿いただきました。
vol.4
岩田圭音さんの「毛玉のお守り」
+++
1983年の秋の終わり頃、奈良にあるキトラ古墳の石室内に、彩色壁画のひとつである玄武が発見されて話題になっていた。
私はコタツに入って何となくそのニュースを見ていたから、もう12月に入っていたかもしれない。
ちょうど同じ頃、近くに住む叔母から、オス猫を拾ったのでもらってくれないかと連絡があった。
私は小学4年生だった。風太郎という猫が亡くなってから数年経っていたので、また猫と一緒に暮らせるのかと思うと、たまらなく嬉しかった。
すぐに父と二人で叔母の家に猫を迎えに行った。
猫はコタツに入っているというので、私はドキドキしながらコタツの布団を持ち上げ、中をのぞいてみた。
奥の方に黒っぽい大きな猫が行儀よく座っていた。
家に連れ帰ってよく見ると、猫はカギしっぽのキジトラだった。
「トラ」つながりということで、当時話題になっていた「キトラ古墳」と同じ名前を母がつけてくれた。
古墳は「亀虎」なのだが、「気虎」と漢字を宛てた。
気虎は、気に入らないことがあると、すぐ唸って「シャーッ」と威嚇する猫だった。
そんな癖も含めて私は大好きになり、何かと彼を連れ回してよく遊んだ。
何よりも嬉しかったのは、夜、布団の中で彼を腕まくらして寝ることだった。
耳元で聞こえる彼の喉を鳴らす音、腕に伝わるその振動、体に感じる柔らかい体温。
一人で寝る時に聞こえてくる変な耳鳴りも、暗闇に感じる何かの気配も、彼のゴロゴロがあると気にならならず、安心して眠ることができた。
だから、彼の頭が重くて腕が痺れてしまっても我慢していた。
私が大学生になり、家を出てからは、彼に会うのは帰省した時だけになってしまった。
気虎が家に来て20年目の秋、台風とともに彼は去っていった。
それから一年後、気虎の遺骨はキトラ古墳付近に散骨された。
父と母が奈良旅行に行った際、古墳近くの草むらに骨のカケラを一つ置いてきたらしい。
あれから随分時間が経つ。
つい最近またキトラ古墳のことが新聞に載っていた。
雨や湿気で壁画をきれいに保存するのが難しいという内容だった。
私はその記事を読みながら、あれは偉大な毛玉のお守りだったな・・・と思った。
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