ヒナタノオト
作品展に寄せて

「猫に真珠」展出展作家有志の方から、猫にまつわるショートストーリーをご寄稿いただきました。

vol.5
大野七実さんの「かぞくの風景」

 

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猫は向こうからやってくるものだと子供の頃から思っていました。
先代は3匹とも、ある時自然にやってきて、ごく自然に家猫になっていました。
その家族を自ら迎えに行くことの想像がつかなくて、その子の一生を思うと、こちらの勝手な都合で決めていいものなのかさっぱりわかりませんでした。
やっとこころが解けてきた頃、何匹かの猫たちに会いに行きました。
けれど会えば会うほどきもちはこんがらがるばかりで…
季節がひとつ進み、ふと出会った1匹の虎猫は、会いに行くとかならず、隅っこに隠れてしまいなかなか顔を見せてくれない。
なのに、帰る頃にはトコトコと出てきて、車に乗り込むわたしを窓越しにじっと見ていました。
きょうで会うのは三度目。なんとか奥へと手を伸ばし、その陽だまりみたいな毛色の背中をやさしくそぉっと撫でてみると、かすかにたしかに、ゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえたのです。
それはそれは小さく消えそうな声で。

・・・・・

お天馬な女の子たちとの追いかけっこではいつも置いてけぼり、恥ずかしがり屋でおくびょうなその虎猫は、白粉花の咲く季節に我が家へとやってきたのです。

慣れるまでにどれほどの時間がかかったことでしょう。
なかなかこころ開かず、しばらくは狭いケージ生活がつづきました。
少しずつ少しずつ距離を縮め、その子のペースで安心を感じてもらえるまでじっと辛抱の時。

あらゆる場所を探検し、ようやく家のなかで好みの居場所を見つけ寛ぐようになりました。
だんだんとやわらかな表情に変わってゆく姿にこちらもゆっくり付き合いながら、やがて一年が経ちました。

すっかり家族の真ん中で、その甘えん坊は、キョトンと愛くるしい瞳を輝かせ、いい子に育っています。
食器棚の上がいまいちばんのお気に入り。
手足を伸ばして熟睡する寝顔を見ていると、こちらの都合で連れてきたことなど忘れて、ぐっすりと眠れる場所があることが、この子にとってなによりなのだとおもえてくる。

たぶんわたしは、その存在とこうして何気ない日々をともに過ごしたかっただけなのだ。
そのふわふわとした毛並みの猫という生きものが、ただそこにいる毎日を。

あの頃のように
これからも。