ヒナタノオト
作品展に寄せて

「青の王国」
ヒナタノオトでの展示の期間は終了しました。

でも、なぜだか終了した気がしないのです。

この笑顔を守りたい、でもずっとそばにいてあげることはできない。
親のように、兄弟のように、そばにいてくれるともだち。
この物語のきっかけは、私の願いからでした。

作者の願いは、アオ王子と共にあり続ける、猫の執事アスルを誕生させました。
アスルは父のようであり、母のようでもあり、兄であり、姉であり、弟であり、妹であり、友人であり、恋人ともなって、共にあり続けてくれると。

丸いパネルとなったアオ王子とアスル。
初日にご覧になられたお客様が、二週目の土曜日にも再訪くださり、共に選んでくださいました。
立ち尽くすようにずっとアオ王子とアスルのパネルをご覧になられていた姿。
「青の王国」の世界に入り込まれて、声をおかけするのも憚れるくらい。
その凛とした佇まいが美しく、とても印象的でした。

在店出来なかったあきこさんにもぜひお見せしたかった。
けれど、アオ王子とアスルが離れ離れにならなかったこと、きっと、ずっと一緒にいるだろうこと。
物語に託したあきこさんの想いは、ひとつ叶ったような気がします。

最終日、にしむらさんのお仕事を見続けていらっしゃる方が、長野県からお越しくださいました。
椅子に腰かけ、ゆっくり「青の王国」をご覧くださいました。

「この本を読んだことで、今日一日が輝きました」

なんてすてきな感想でしょう。
その言葉自体が輝きでした。

10か月近く待ち望んでやってきた、愛おしい存在。
どんな声をして、どんな風に笑うんだろう?
どんなことを言って私を困らせるのだろう?
言葉が話せるようになったら、一番に聞こう。
お母さんのお腹の中はどうだった?

そして、一緒にたくさん歌を歌おう。

2016年に作成された「うたうたい」のあとがきから。
あきこさんが一番聞きたい「音」のこと。
それを思うと胸が締め付けられるようになるけれど、
あきこさんは極々私的な感情を、けっして窮屈にかためない。
正直に、隠すことなく、けれど、露悪なところがまるでない。
手にした喜び、かなしみ、願いや不安を、現実の匂いや温度、音色や味覚を言葉に託して、逃避ではない希望の物語に創りあげていく。

その言葉の世界と響かせて、美術としてかたちづくる方法として、「和紙」という素材がとても適っているのでしょうか。
楮(コウゾ)の繊維が水の中で漉かれながら揺らめいて、作者が描いた輪郭は、自然の揺らぎに委ねられ、自然のことわりを得て定着していく。
それは、ある種の陶芸が、最後に窯の火に完成を委ね、人の意思を超えるほどの美しさを生むことと近いように思います。

コロナ禍の中、あきこさんも後半は在店が叶わなかったり、行きたい!と思ってくださった方の中にも、お越しになられなかった方も多かったことと思います。
けれど、今回、こうして展覧会を創ることができて、ほんとうによかった。
これが出来たことは、次につながること。
そう、生きているひとの展覧会というのは、展覧会も生きているものだから。
「青の王国」が出来たことは、次のあきこさんの創作の起点になっていくことでしょう。
ヒナタノオトでも、二年ほど時間をいただきながら、にしむらあきこさんの創作の世界を、続けてご覧いただきたいと思います。

「青の王国」展、15日16日の火曜、水曜も展示をこのままでご覧いただけるようにしています。
また、19日土曜日正午から、「青の王国」の書籍(手製本)をはじめ、ヒナタノオト推薦図書?として数冊、そのほかに、パネル、額、お茶筒、赤い風船のモビールをオンラインストアにてお選びいただけるようにご準備いたします。
届くべき方のところへ、お届けできますように、名残を惜しみつつ、スタッフそれぞれ心を込めて準備を進めます。