思想工房
作り手との対談
今回の作り手
津村里佳
2005年3月 東京国際ガラス学院基礎科卒業
2005年4月 千葉県にて制作開始
全国にて個展、グループ展など多数
www.tsumurarika.com
食事をする、花を飾る。
毎日の光景を、ふと訪れる特別なひとときを、どうあしらおうか。
そんな時に「あ、あの器があったな」と、手を伸ばして使って貰えるような物を意識して制作しています。
津村里佳さんの「種」
2023.11.10津村里佳さんのガラス展が11月11日から始まります。
ヒナタノオトでは、4回目の個展。
毎回ご覧いただいている方も多いことと思います。
今回は改めて里佳さんの創造の「種」についてお聞きしました。
宇佐美:
2009年、工房からの風初出展が出会いでしたね。
その年の最年少作家さんでした。
出展を前に、庭人さんを手伝いたいと、庭作業に参加してくださったことをとてもよく覚えています。
津村:
あれだけの庭を皆さんの善意でキープしているのがすごいですし、そんな場所で展示ができるなんて光栄なことだとおもいました。
作家として何ができるかまだ模索中だったので、まず会場のためにできることを考えたんです。
花器にお庭の植物を飾らせていただけるともお聞きしていたので、
他の作家さんは全国からいらっしゃるけれど、自分は住まいが千葉ということもあり、当日作品にお花を飾って終わりではなくて、その前からお手伝いをしたいなと。
宇佐美:
改めて、ガラス制作との出会いをお聞きできますか?
津村:
もともと手を動かすことをしたいとおもっていたのですが、高校生くらいのときに家族と訪ねたガラス工芸の美術館でチェコのおばあちゃんがつくったガラスモザイクの作品と出会って。
とても大きな作品で、おばあちゃんになってもこんな大作をつくることができるのだと興味を持ちました。
その美術館の学芸員さんに、ガラス作家という仕事があること、技術を学べる学校があることを教えてもらって、それから学校の見学に行きました。
出会いにも恵まれ、作家として続けてこられています。
手を動かすことが自分を動かす、運んでくれる、という感覚でしょうか。
ガラスの好きなところを一言では表わせないですが、続けられていることそのものが、ガラスとの縁なのかなともおもいます。
宇佐美:
ご両親がペンションを営んでいらしたのですよね。
やはり影響を受けられたりはしましたか?
津村:
3歳頃まで、ペンションのある長野県で暮らしていました。
私もお客様のお出迎えをしていましたよ!
小さかったのではっきりと記憶はないのですが…その環境のおかげで人格形成されているのは確かです。
自分がガラスをやりたいとか、何をやりたいかというより、もっと核の、人としての原点がそこにあったとおもいます。
宇佐美:
ご両親がなさっていたお客様へのおもてなし、誰かに喜んでもらいたいという気持ち。
里佳さんの「種」がそこにあったのでしょうか。
展覧会での里佳さんとお客様との会話、ぴかぴかに磨かれた作品への愛情からも、“喜んでもらいたい”という想いを感じられますね。
里佳さんはお料理もお好きですよね。
津村:
例えば庭の金柑を煮たり…家で過ごす時間が好きです。
家の中はテーブルだけではなく、楽しむシーンはほかにもありますよね。
例えば、窓や廊下。ここにおきたい花器やモビールはどのようなものかなと想いを巡らせます。
自分の工夫でどう楽しめるかを考えることが幸せです。
宇佐美:
モビールも代表作のひとつになりましたね。
津村:
モビールは展覧会の時にだけ出品する特別な作品で、発表を始めて8年ほどになります。
設計図はなく、メインのパーツを決めて、そこから世界を広げていきます。
今回のキービジュアルの作品はグレーの球体から始まりました。
まずはパーツを目線の高さで組み立ててから、
実際に吊るして眺めては降ろして整えて…を繰り返し、気持ちのよいバランスを探っていきます。
モビールは影も作品になるところもまた魅力ですね。
器をオンラインで広やかにお届けできるようになったのも嬉しいことですが、
展覧会に訪れたからこそ“体験”してもらえるような作品をつくりたいとおもって。
リアルに来ていただく意味というか。
宇佐美:
“体験”や“経験”は、まさにヒナタノオトでも大切にしているキーワードです。
ゆらゆらたゆたうモビールを眺めながら、お客様同士の会話が生まれるのもよいですよね。
集まった方々で空間を共有して、「きれいだな」という気持ちや言葉が連鎖していくのも素敵です。
津村:
はい、それが嬉しくて!
ギャラリーでひととき一緒に過ごして、この“光景”を持って帰っていただけたら、という気持ちで手渡しています。
宇佐美:
今回は、モビールを中心にインスタレーションのように展示する構想なのですね。
ぜひ会場で皆さんに“体験”していただきたいですね。
楽しみにしています!
モビールのメインに使われる吹きガラスの玉。
理化学ガラスの管を加工し、金属と合わせてつくるパーツ。
フランスのガラスビーズを組み合わせて。
– 取材後記 –
ご両親のペンションの話の時、ご自分の名前の「里」の字には、
「里の子」という由来があるのだと嬉しそうに教えてくれました。
(たくさんの大人に囲まれた、ちいさな里佳さんの愛らしい姿も目に浮かびますね!)
幼少期に山に囲まれて育ったからか、街中に住むようになっても緑を求める、と。
今、花のための器を作っていることも自然なことのようにおもえます。
モビールはトライ&エラーを繰り返しながら構築していく作品。
一方、吹きガラスは瞬間で形をとらえる時間との勝負。
両方取り組むことで、バランスをとられているのでしょうか。
「手を動かすことが自分を動かす」という言葉も印象的でした。
花器の代表作「ハナドキ」シリーズ。
季節の花を一輪。
シンプルなフォルムに、リムが
デザインとしても生きていて、
かつ、花を安定させて生けることができます。
里佳さんの仕事は、定番をコツコツを制作するスタイル。
そこにはお客様からの追加のリクエストにも応えつづけたいという想いがあります。
ファンの世代も幅広く、工芸のある暮らしの扉を開けたばかりの若いお客様が、
「まずひとつ」と一生懸命選ばれる姿も愛おしいと。
定番があるからこそ、ひとつひとつ集めていく喜びが叶えられるのでしょう。
今回はモビールを中心にしつつも、器もたくさん(!)ご制作くださいました。
いよいよ明日、11日から。
皆様のお越しを、初日は里佳さんと一緒にお待ちしています。
取材・文:宇佐美智子
写真:中川碧沙
花生け:本間由美子
花生けの写真:稲垣早苗
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