思想工房
作り手との対談

今回の作り手

加藤キナ

1972年岩手県生まれの牧さんと、1973年長野県生まれのなほさん夫妻によるユニット。
2003年より「加藤キナ」として活動を始める。
近年は駆除された鹿皮の活用を中心に制作。
「TOUBOKKA」など日本独自の革袋物の制作も進める。
東京都在住。
稲垣とは、2014年に「工房からの風」を通じて出会い、企画展などへの出品を依頼。
2018年、2019年には共にデンマークに滞在して、日本の手工藝展を開きました。

2 peace peace peace

2020.04.18

稲垣
先に、イメージ的なお話を伺いましたが、実際の作品についてお話しいただきましょう。
キナさんたちが今展に向けて制作されたのは、どのような作品でしょうか?

加藤
今回の展覧会のために、タンナーさんにオリジナルの色を染めていただきました。
その今回の限定色の鹿革で作ったカバンや、お財布や名刺入れといった革小物の
各1点ずつの現品と、その受注をさせていただきます。
数に限りはありますが、とても良い色に染め上げていただいたんですよ。

稲垣
皮を革にするお仕事であるタンナーさんは、革工藝作家にとってかけがえのない存在ですね。
特に一般的ではない鹿革を用いるキナさんにとっては、その仕上げはもちろん、色合いも毎回気を揉むところだと思います。
今回は、とっても素敵な色に仕上がったんですね。

加藤
はい。
トパーズ、グレイッシュレッド、グレイッシュブルー。
繊細な色味なのですが、各5頭分を染めていただきました。

その他、私たちが「キャンドルレザー」と名付けた、鹿革に蝋を引いて仕上げた植物のコサージュ、
新作の「鳥の歌」モビールなどを制作しました。

モビールに名付けた「鳥の歌」には、チェロ奏者 パブロ・カザルスへ寄せた想いも響かせました。
パブロ・カザルスが平和を願い、コンサートの最後に奏でた祖国カタルーニャの民謡。
キリスト降誕を鷲・雀・小夜啼鳥・小さなミソサザイが喜び歌う、
古いクリスマス・キャロルでもあります。

今回制作したモビールのモチーフには平和の象徴である鳩を。
大小さまざまなな鳩たちが、ゆらりゆらりと静かに揺れています。

このモビールの一番上に輝くのは小さな星です。
滞在していたTversted Skoleに工房を構えるSorenさんLeneさんご夫婦からいただいた
クリスマスのオーナメントから。
糸の長さも調節できるように工夫もしてみました。

稲垣
パブロ・カザルスの1971年、94歳の時の国連でのスピーチ。
キナさんに教えていただいてyoutubeで見ました。
感動します。ほんとうに。震えますね。
peace peace peace
と故郷の鳥は鳴くのだと。

搬入中、キナさんがヒナタノオトでこの曲をかけてくださいました。
その翌日のスタッフとの設営のときにも、ずっとかけていました。
実際にご覧いただける展覧会でしたら、ぜひこの曲をかけていたかったですね。
「無観客展覧会」となりましたけれど、このサイトを見ながらBGMにパブロ・カザルスのチェロをかけていただけたらうれしいですね。

加藤
イメージとしては、自然光の中で少し窓を開け、お気に入りの音楽と共に楽しんでいただけたらと思っています。
光に透ける鳥たちがゆっくりと、私たちの動きや音楽から伝わる些細な振動に呼応するように動いてくれて。
デンマークでは古くから室内装飾として用いられてきたそうですね。
確かにこの柔らかな動きには、人の心を和ませる力があると今しみじみ感じています。

稲垣
デンマークは家で過ごす時間が多いですし、大切にしていますね。
だから家具やインテリアに簡素だけれど素晴らしいものが多いですし、モビールも多くの家庭で楽しまれています。
Stay homeの今、職場での時間の方が長い人が多かった日本人も、
家での心豊かな時間について、考え、望みを見出そうとしているのではないでしょうか。
キナさんたちがモビールを作ろうと思われたことと、奇しくもシンクロしているようにも感じます。

さて、先ほど触れた革のことについてですが、
キナさんたちがここ数年真剣に取り組んでこられた鹿の革について、もう少しお話しをお聞かせくださいますか。

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野生鹿の恵み

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