思想工房
作り手との対談

今回の作り手

加藤キナさん

1972年岩手県生まれの牧さんと、1973年長野県生まれのなほさん夫妻によるユニット。
2003年より「加藤キナ」として活動を始める。
近年は駆除された鹿皮の活用を中心に制作。
「TOUBOKKA」など日本独自の革袋物の制作も進める。
東京都在住。
稲垣とは、2014年に「工房からの風」を通じて出会い、企画展などへの出品を依頼。
2018年、2019年には共にデンマークに滞在して、日本の手工藝展を開きました。

4 芸術家の最善

2020.04.18

稲垣
今回の展示は、ほんとうに先が見えず、
方法が確定するまでお互いに状況に翻弄されて、迷いもしましたね。

加藤
新型肺炎により外出自粛のさなかでの開催となりました。
通常の形での個展は中止となりましたが、ホームページの中でご案内いただける事になりました。

作品だけお送りしてオンラインで発表していただく形も考えましたが、
このような時に私たち作り手ができることは何かをずっと考えていました。

ささやかでも温かいお気持ちになっていただけるように、壁一面に鳥を羽ばたかせようと。
普段はお客様や作家が出入りする空間を天井から床までいっぱいに使って。
実は壁が屋根の形になっていたり、
床がとても素晴らしいテラゾータイルであったりするヒナタノオト。
このようなタイミングでしか生まれなかった展示を、
おうちにいながら楽しんでいただけたらと思ったのです。

稲垣
メールや電話でやりとりをしながら、なかなかおふたりの意図や希望がつかめなかったり、お互いにちょっと気持ちがくじけそうになったり。
けれど、その都度、真剣に相手のことを考えますから、いつも以上に作家のこと、作品のこと、展示のことについて想いを深められたような気がします。

感染症流行自体には困ったことしかありませんが、
キナさんたちとのこの一連のやりとりは本当に有意義でしたし、キナさんたちとだからこそ為し得た今展だったなと思っています。

そして、キナさんたちが打ち合わせにヒナタノオトに来られた数カ月前、
58年前に建てられたこのセントラルビルを、
面白いね、素敵だね、とあらためて見てくださいましたね。
デンマークの屋根裏部屋をイメージした天井部分や、昭和の一時期に流行ったテラゾータイルも、おや、いいねって。
それらを生かしてモビールやマグネットオブジェを作ってくださり、足元には、砂浜についた鳥の足跡まで制作してくださって。
実際にお客様をお迎えしたら、こんなに低くモビールは吊るせませんし、ましてや床に作品を置くなんて無理でしたものね。

加藤
今は人と人との距離を取らなければならない時。
お客様はもちろん、スタッフの皆さんともお会いする事ができません。

私たちは物を作り、それをヒナタノオトさんに託しました。
伝え手であるヒナタノオトさんが、その想いをどなたかの元へと届けてくれると信じて。
お互い顔を合わせずとも、信頼する気持ちがあれば何かがずっと繋がっていく。

そう信じられたら、この不安の中でも心が少し安らぐような気がしました。
実際の展示も稲垣さんだけが来られて、近づかないように配慮しながらこの空間を創りました。
あとは、ヒナタノオトさんがウェブ上で広やかに深く皆さんに伝えてくださると信じています。
そう、この鳥たちが想いを運んでくれますようにと願いながら。

稲垣
「加藤キナ展 鳥の歌 fugl sang」は、思いがけず、このような形での開催となりました。
お客様には実際に見て、触れていただけなくて申し訳ありません。

いよいよ搬入となった日、キナさんがデンマークでの思い出を綴った自ら製本したノートに、
バベットの晩餐会に寄せて書かれた一文を見つけたんですね。
そこには、カレン・ブリクセンがこの小説で書きたかったことのひとつ、
「芸術家の心には、自分に最善をつくさせてほしい、その機会を与えてほしいという、世界中に向けて出される長い悲願の叫びがあるのです」
というフレーズに響いた言葉が書かれてありました。

加藤キナさんたちに最善を尽くしてほしい。
そして、私たちはその機会を精一杯作ろう。

もっともっとあれもできたら、これもできたら、、、という想いもありますが、
ぜひ、このサイトの幾つかの頁から、加藤キナさんの作品とその想いを感じていただければと思います。

牧さん、なほさん、とっても素敵な作品、そして空間を創ってくださってありがとうございます。



今回、加藤キナさんの工房をお訪ねして、このインタビュー頁を作成する予定でおりました。
しかし、感染症流行に伴い、実際の訪問が叶いませんでした。
そこで、電話、メール、搬入時の会話を基に、稲垣がこの対談頁を構成いたしました。

このオウンドメディア「手しごとを結ぶ庭」には、「種」という対談頁のコンテンツを作っておりました。
そこに初めて登場くださったのが、加藤キナさんとなりました。

この「種」のコンテンツの他、「果」での作品紹介、
そして、オンラインストア「ソラノノオト」での販売頁など、ぜひさまざまな頁をお訪ねください。
また、会期途中にも、追加の記事も掲載予定です。
Stay home の時間の中で、加藤キナさんによる「鳥の歌」が、
皆様にのもとに爽やかに響きますことを願っております。

オンラインストア「ソラノノオト」→ click