思想工房
作り手との対談

今回の作り手

高見由香(染織)

1979年 兵庫県生まれ
2001年 多摩美術大学デザイン学科卒業
     インテリアデザインの仕事に就く
     並行して染織りの基礎を学ぶ
2009年 工房からの風出展 作家活動開始
     各地で個展やグループ展を開催
2019年 自宅兼アトリエが完成

高見由香さんのアトリエを訪ねて

2020.11.12

包む光

高見由香さんの個展をヒナタノオトで二年ぶりに開きます。

高見由香さんとの出会いは、2009年の工房からの風。
もう11年も経つのですね。

インテリアデザインの仕事を本業としながら、染織の道を歩み始めたひとは、
静かだけれど芯の強いひと。
決して目立つ言動をせずに、けれど自らの関心のあることにはまっすぐに向かうひとでした。

染織の道を進む人も、最初からそのひとならではの個性ある布づくりをするばかりではないでしょう。
高見さんもひとつひとつの心惹かれる要素を探りながら、
それを具現化するためにさまざまな模索を重ね、一枚一枚の布を織り上げ続けてこられました。

「続ける」
工藝作家という仕事を成すために必要なことは「続ける」ということだと思うようになりました。
「続ける」中で感性が養われ、手が熟し、心が豊かになっていく。
それらが融合しながら、人の心に佳き響きを与えるものが生まれていく。
高見由香さんの11年にわたるその仕事ぶりに、ますます想いを深めました。

稲垣
今回の個展に向けて、どのようなことから取り組まれたのでしょうか?

高見
いざ集中しようと思った頃にコロナ禍となって、
子どもの学校も休みとなり、制作の時間も少なくなりましたね。

そして、外出を控えなければならなかったので、外での刺激を受けられない。
そのために、自分で自分を癒すようにしていました。

昔の記憶をたどって、きれいだなぁと心にためていた風景や感覚を手繰り寄せてみたりを心がけました。

稲垣
今展に向けて最初に織り始められたのはどのシリーズですか?

高見
モザイクシリーズの大物から手がけました。
これは、近所の小さな森の緑から触発されて織ったものなんです。

稲垣
ご近所の森をフックとして、きっと高見さんの心に沈んでいたいくつもの緑の美しい風景が布の中に展開されていったのですね。
紫系のものは夕暮れ?それとも草花??
たっぷりと布を広げて、ひとりひとりが心の中の風景を展げられたら面白いですね。

このモザイクシリーズは、カシミヤ100%の作品ですが、高見さんの布には意外な素材の組み合わせもありますね。

高見
実験好き!なんです。
新しいものに挑戦することがとても好きで。
しっとりとやさしい素材感のもの、ワイルドなもの、その方向性の違いを合わせてみたり。
トライ&エラーを繰り返していますから、ボツになるものももちろんあるのですが、
最初のイメージとかけ離れて、わっ面白い!というワクワクとの出会いがとても大切なんです。

高見
カシミヤとタッサーシルクを使ったものも、イメージではもっとクシュクシュ、シワシワだったんですが、意外となじんで織りあがったんですね。
光が当たると凹凸が浮かび上がってくるところも気に入っています。

稲垣
光といえば、このアトリエは光を静かに美しく感じられるスペースですね。

高見
日の移ろいの中で織る仕事をしていると、感じた光が布に反映されていくような気もします。

稲垣
二年前の個展の後、二年後をお約束して、その間にこのご自宅兼アトリエを建てられて。
インテリアデザインのお仕事をなさっていらしたから、設計イメージも明確にあったのでしょうね。
今回お訪ねして、タイルや壁、金物パーツなど、マテリアルも選び抜かれていてすばらしいなぁと感じ入りました。
特に、一階がすべて由香さんのアトリエで、染めと織りをなんて贅沢な空間でされているのだろうと驚きでした。

高見
この空間には、好きなものしかないんですね。
ほんとうに幸せな時間を過ごしています。

稲垣
「好きなものしかない空間」、なんて言ってみたいです(笑)
けれど、高見さんはもともと「始末のよい」方で、整理整頓も心得ていらっしゃるからこそ、
「好きなものしかない空間」を維持できているのですね。
幸せな時間で染め織りあげられた布は、きっと手にして、まとわれる方も幸せにすることと思います。

今回、アトリエをお訪ねして、由香さんが作りあげた幸福な空間で、光に包まれながら制作をしていることを感じました。
ヒナタノオトでのタイトルは、アトリエに伺って決めようと思っていましたが、
「包む光」ではいかがでしょう。

高見
「包む光」
いいタイトルですね!ありがとうございます。
織りためた作品を見返すと光を意識した作品が多い事に気づきます。
新しいアトリエの光の中で制作していた影響かなと思います。
新しいアトリエで制作した作品の数々、多くの方にご覧いただけたらありがたく思います。

稲垣
今日は映像も撮らせていただきましたので、ヒナタノオトのYouTubeチャンネルにも上げておきますね。
では、14日土曜日からの個展、どうぞよろしくお願いいたします。

高見
こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。

YouTube はこちらからご覧ください。
click