スタッフブログ
ヒナタノオト日誌
展をおえて
2023.04.12大住潤さんの作品展は、ヒナタノオト、私個人にとってもとても印象深い会となりました。
潤さんと出会って8年。
アイヌ文様や羽根の木彫のみをされていたときから、クマを彫るようになって8年。
心地よいアトリエに越され、ふたりのお子さんに恵まれ、作品の人気が高まっていく充実の日々。
近隣でもなく、ましてこの3年コロナ禍だったこともあって、
潤さんの日々のご様子は、作品展のご案内以外は詳らかにはわかりませんでした。
求められることが大きくなって、ご負担はないだろうかと、ふと老婆心もくすぶります。
35年もこの仕事をしていると、忙しくなっていく中で、バランスを崩してしまった作り手を何人か見てもいます。
ものを創り出す仕事は、人に気づいてもらえない、求められない時間のしんどさもさることながら、
創り出す速度と求められる速度がかみ合わなくなるのも苦しいものなのです。
そして、他者はすでに生み出されたもののリピートを望みますが、
創作者は常に動いて先に進もうとしています。
そのズレをどう対処していくか。
そんなことも、作家の進化成長には大切だったりするように思うのでした。
3月、潤さんのアトリエを訪ねてゆっくりお話しをさせていただいて、
そんなささやかなシンパイごとはあっさりと消えていきました。
樟の清々しい香りに包まれたアトリエ。
広やかで余白が豊かに取られた空間で、師から譲り受けた刃物で心地よく木を彫り出す姿。
安寧な時間がそこには流れていました。
その源には、潤さんの創作への初期動機が汚れることなく照り続けていること。
そして、祐子さんの根の揺らがない励ましと、怜くん杏ちゃんとの愛に満ちた日々があることをじんわりと感じました。
この安らぎのまま展覧会を構成したい。
そう思いました。
それを伝えるツールとして、映像があり、ギャラリートークがある。
そう思いが定まると、何も迷いはなくなりました。
潤さんの安寧と、そこから生まれる作品が、伝わるべき方に伝わりますように。
そんな想いで個展は始まりました。
会期中、いくつもの素晴らしい瞬間がありました。
その中のふたつのエピソードを。
〇
潤さんが敬愛する星野道夫さん。
そのごく近しい方が会場にいらしてくださいました。
実にゆっくり味わうように見て、感じてくださり、静かに潤さんを励ますような言葉をかけていらっしゃいました。
いや、「かけて」などいなかったのです。
その方が、星野道夫さんへの愛をもって、今展から感じている想いをささやいていらしたのでした。
「今もきっとここにいると思うんですけれど、きっと喜んでいると思います」
そう潤さんに話されたとき、その言葉の純度が高くて、脇に居た私まで涙ぐんでしまいました。
とてもとても素敵な、素晴らしい方でした。
〇
長男の怜くん。
元気いっぱい!
ギャラリートークでは、最初かぶりつきの特等席に陣取っていました。
(お客様が全員来られたので、祐子さんが「怜君こっちにおいで」と席を空けてくれましたが)
トーク中、なんどか怜君が潤さんと一番後方にいる祐子さんのところを行ったり来たり。
あけて翌日、ご自宅に帰った祐子さんからのメールの一節。
『・・・怜は、一番前でおとんちゃんの話を聞きたい。と。
歩き回り迷惑おかけしましたが、私の所へ来ては、
「あのね、おとんちゃんが大好きって言いたいの」
と耳元で囁いてみたり。』
怜君、おとんちゃん(おとんちゃん、おかんちゃんと呼ぶそうです)が大好きっていうの、
みんなちゃんと感じていたよ。
潤さんのお話もとても豊かで、そこにご家族の愛情も添えられた時間。
ギャラリートークを企画してよかった、と思ったことでした。
ギャラリーを開き、運営する。
何年続けていても、正解というものはなくて、喜びや時に悔いもあったりもしますが、
基本は、作家のことを理解しようという気持ちと共感、そして、それを人に伝えていこうという想い。
展覧会が終わったときに、次への希望が立ち上がってきたとき、じんわり幸福を感じます。
今回感じた幸福は、潤さんや展覧会を見てくださった方々との共鳴の賜物なんだと感じます。
そうそう、会場で投影していた約5分版の映像。
youtubeにあげました。
展覧会の余韻。
こちらもぜひご覧ください。
次回のヒナタノオトでの個展は2026年の5月を予定しています。
それまでも、少しずつ作品ご紹介できることを願っています。
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