連載
作り手による文章の世界
Editor's voice
稲垣 早苗重心低く
2020.05.21作家の方々から寄せていただく言の葉。
「葉」の連載も二巡目になって、先月の熊谷茜さんに続き、新潟の富井貴志さんからの原稿をアップしました。
(長野麻紀子さんのエルダーフラワーの記事は、Stay home特別寄稿としてご寄稿いただきました)
「地点を変えて」
が、富井さんの通しタイトル。
富井さんと会ってお話しするのは、私にとって楽しく豊かな時間です。
それは、富井さんの内側から深く考えた言葉に出会えるから。
そういう富井さんだからこそ、
『自分の考えでものを作るようなことを毎日やっていると、どうしても自分の視点、思考でしか考えられなくなってくるので、たまに意識的に立ち位置をずらす作業が必要だなと思う。見え方はいろいろある、ということを心に置いて書いてみましょう』
という風に連載に際して、想いを聞かせてくださったのでした。
つまり、「視点を変えて」ということなのですが、物理を学んだ富井さんのイメージから「地点を変えて」とご提案をして、受けていただいたのでした。
地点を変えて、とはいえ、Stay homeの日々ですね。
身体的な地点はあまり変えられませんが、富井さんはご自宅の池を基点のようにして、見えてきたこと、考えたことを綴ってくださいました。
『・・・事態が収束したとしても「コロナ以前の生活に戻りたい」とは一切思わなくなりました。
今を良しとして受け止めることも時には大切なことかもしれません。
しかし思考停止することなく、皆にとってもっともっと良いと思われる将来を思い描き、声を上げて進んでいかなければならないと強く感じています。』
というフレーズは、同じように感じられる方も多いのではないでしょうか。
いずれ、思考停止することなく、ということは特に共感します。
人の言動をジャッジしたり、疑心暗鬼になったりせずに、自身の思考を深めて、進める。
そうありたいと思っています。
ところで、おひとり、おひとりに文章の個性がありますが、私が抱く富井さんの文章の印象は「重心が低い」こと。
ネットの時代、SNSの文章ばかりに触れていると、どうしても軽妙でキャッチーな文章になじみます。
私自身も含めて。
上質な軽妙でキャッチ―な文章も好きですけれど、重心の低い文章に出会うと、読みながら自分の思考にその言葉がじんわり響いてきます。
富井さんが撮られた画像。
カタクリの群生。
中学生のとき、歳時記にすっかり魅せられて、暗記するように読み込んでいました。
春の季語の頁にあったカタクリの花。
その後、カラー写真もある図鑑のような歳時記を手に入れたときに見たその花の可憐さと、
一面に群れて咲くの野の光景は、あこがれの聖地のように心に刻まれました。
未だ出会うことなく40年!。
皆さんにも、そのような憧れの聖地?ありますでしょうか。
「行く」「訪ねる」ということが安易にできなくなった今、
「行く」「訪ねる」ことのありがたさをしみじみ感じますね。
行けたこと、訪ねられたことの喜びは、今後はより深くなっていくことでしょう。
身体的に「地点を変えて」みることはしばらく難しそうですが、思考はしなやかに「地点を変えて」見たいと思います。
Writer
- 稲垣 早苗
-
オウンドメディア「手しごとを結ぶ庭」を企画編集しています。
「葉」のコンテンツは、「言の葉」の「葉」。
工藝作家やアーティストの方で、私がぜひ文章を書いてほしいと願った方にご寄稿いただきました。わりとはっきりとテーマをお伝えした方、あまり決め込まずに自由にしてほしいとお伝えした方、、、いろいろですが、私なりに「編集」に取り組んでいきたいと思います。
ひとつひとつの「葉」が茂り、重なっていったとき、どんな樹形が見られるでしょうか。
今、答えを持っていないことが、ひとしおうれしく感じられます。 - もっと読む
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