裏庭に咲いた話 2

大野 八生

金のハサミ 銀のハサミ 

2024.04.19

緑の季節。
1週間であっという間に庭の姿が、ガラリと変わってゆきます。
季節を追って、様々な美しい花が咲き、そして野の草花たちも勢いをましてゆきます。

この時期、人が植えて育てている植物と野の植物とのバランスを整えてゆく作業をしているのは、楽しいのですが、時時間が経つのがとても早く、泳いでも、泳いでも岸辺に辿り着かないような気分になります。
そんな時ふと、庭にいるのに湖や海の中にいるように思えてきます。
夢中で草を引き、花柄を摘み、支柱を立て、紐を結び、掃き掃除をする。
あっという間に夕方になるのです。

緑の中で、夢中で泳いでいるので気がつくと「あっ!!」と大切なものがないことに気がつきます。
「ハサミ!」
腰に道具入れをつけているのにそこにない時がよくあるのです。
私と庭仕事をご一緒していただいている皆さまには、何度となく「ハサミがない!」という言葉を夕方近くになると聞いていらっしゃることでしょう。
草をかき分けて庭の中、探して見つかることも多いのですが、運悪く見つからないことも多いのです。

ハサミは、自分で購入したもの、贈り物でいただいたもの、サンプルで使わせていただくもものなどなど。
どのハサミも、長く日々使うとても大切な相棒です。
いつも一緒のものがなくなると、とてもがっかりします。
「金の斧 銀の斧」の童話のように庭の湖の底からハサミを持って神様が出てきてくれないかな?
と本気で思うのです。

眼鏡をかけるようになって、眼鏡も庭でなくすことも多くなってきました。
「眼鏡がない!」
夕暮れどきは要注意なのです。

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イラストレーターでガーデナーでもある大野八生さんからの原稿と絵をお届けします。
『庭の湖の底からハサミを持って』出てくる神様!
大野さんご自身が、まさに庭の神様が配してくださったように、手と目と心を働かせて植物に触れていらっしゃいます。

八生さんの妹さんの大野七実さんの個展もあと2日。
やはり植物が大好きな七実さんの作品。
花の器、食の器をぜひご覧くださいませ。
この土日は、七実さんも在店くださいます。(日曜日は16時まで)


Writer

  • 大野 八生
  • 大野八生(おおの やよい)
    千葉県生まれ。園芸の好きな祖父のもと、子どもの頃から園芸に親しむ。
    造園会社などの仕事を経てフリーに。
    現在、画家・造園家として活動。
    絵本に『にわのともだち』『じょうろさん』(偕成社)『盆栽えほん』
    『ハーブをたのしむ絵本』(あすなろ書房)、『みんなの園芸店』(福音館書店).

    ほかに、多数の装画の仕事と、日高敏隆氏の著書や、小学校国語教科書の表紙画(光村図書)などを手掛ける。
    庭師として、「ニッケ鎮守の杜」の手入れなどに携わる。

    +++

    植物と暮らしていると、時々、たからもののようなものをもらうことがあります。
    ささやかな小さな声を聞き逃さないように。
    小さなしあわせを綴っていけたらいいなと思います。
    どうぞお楽しみに。

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