素のままに

長野 麻紀子

夜間飛行

2024.05.12

とろんとした黄昏がなみなみと注がれた杯に、菫、青、灰色が入り混じりはじめ
するすると夜の帳が下ろされてゆくのを、ぽうと眺めていた。
最後のレモン花と薔薇の香りを色濃く漂わせる夜の淵に腰掛けて、
湯を沸かし、グリーンルイボスの茶を淹れる。
ルイボスの故郷、クランウィリアムの夜。
語らいの夜。嵐の夜。砂漠の夜。海辺の夜。夜行列車の夜。
さまざまな夜が通り過ぎていった。
水揚げしておいた庭の結晶より、
ことばの草はなを束ねて、白い大きなふうせんに結えたら
夜間飛行に出発の合図。
誰もが地図のない日々を旅する。

形あるものあらゆる事象に終わりがあり、別れがある。
頭でわかっているつもりでも、さよならだけはなかなか上手になれないまま。
でもそれでもいい。
きっとその深さのぶんだけ、
ふいの出逢いを尊び、再会に涙しながら、
人生のよろこびの果実を味わい尽くしていけることだろう。

最後に、この不定期のコラムにおいて
拙文にお目通しくださった読者の皆さまに心よりの感謝を記しおく。
幼少期よりことばたらず、ほとんど絵を描くか、
粘土をこねるか、星石草の囁きをきいて過ごしきた自分には
過分の機会を頂戴した。
遅筆どころか、降りてこないとまったく書けない、
だがとつぜん時と場所とを選ばず、書かずにはいられなくなる矛盾に満ちた自分に、
あらたなせかいとの邂逅の貴重な機会をくださり、
最後まで根気づよくお付き合いくださった稲垣さまに、格別の感謝の花束を贈りたい。
夜の海のごとき満開の庭の薔薇を束ねて。

Photo by 7

きしかたもゆくすえもしらず
ただいまここにおおよそひとのかたちになって息をしている
きずつきちをながしさすらいつづけ
ただただまっしろにまっさらに
かがやけるたましいで

You are Light

Anima uni
長野麻紀子拝