連載
作り手による文章の世界
裏庭に咲いた話 2
大野 八生冬のバラ
2020.12.14暑い夏は、暑いところへ。
寒い冬は、寒いところへ。
庭師の仕事は、いつも季節の中にあります。
その中で、冬の庭がいちばん好きです。
自分の生まれた季節だからでしょうか。
冬は日が暮れるのも早いので、庭仕事も急ぎ足、夕方4時ぐらいには、もう日が落ち真っ暗になり、気分的には、なんだか7時ぐらいの感じです。
冬の日の庭で、宿根草たちは、もうとっくに眠りに入り、落葉樹も葉を落とし、虫たちも静まりかえっています。
クリスマスローズだけが、花の支度をしています。
その横で、四季咲きのバラたちは、今年最後の花を美しく咲かせています。
バラは病虫害が多く、オールドローズ、原種のバラなど、育てては枯らしを繰り返してきましたが、今では結果的に強く丈夫なバラを好むようになりました。
四季咲きのバラは、丈夫で育てやすい品種が多く、12月に入ってもまだ、花を咲かせて蕾も付けています。
バラは、春の印象がありますが、そんな冬に咲くバラがとても美しいと私は思います。
葉を食べる青虫やアブラムシも姿はなく、ウイルスなどの病気も落葉すればおしまい、何も気にせずにバラを楽しめるひとときです。
寒さで赤く色づいた葉や茎の姿も美しく、深い色の花がことし最後の歌を歌っているかのようです。
本当は、こんなに遅い時期まで花を咲かせておいてはいけないのですが、この姿が見たくて冬までバラを咲かせてしまいます。
蕾は、すべて花を咲かせてくれるのではないので、年のおわりに摘んで花瓶に。
庭では、寒さで咲くことができない蕾のバラもほっとしたように花を咲かせてくれます。
1月中頃からは、バラの剪定の時期です。
元気によく咲いたもの、弱ってしまったものも、短く剪定をして、肥料をたっぷり与えたら、春からまた新しくスタートです。
その年、上手く育てられなくても、冬にリセットできるのがバラの良いところ。
何度でもやり直せるのです。
遅くまで咲かせてしまったバラは夜更したように、少し遅れて花を咲かせます。
私のベランダのバラたちは、夜更かしばかりのバラですが、また新しい春まで少しおやすみです。
ことしもありがとう。
Writer
- 大野 八生
-
大野八生(おおの やよい)
千葉県生まれ。園芸の好きな祖父のもと、子どもの頃から園芸に親しむ。
造園会社などの仕事を経てフリーに。
現在、画家・造園家として活動。
絵本に『にわのともだち』『じょうろさん』(偕成社)『盆栽えほん』
『ハーブをたのしむ絵本』(あすなろ書房)、『みんなの園芸店』(福音館書店).ほかに、多数の装画の仕事と、日高敏隆氏の著書や、小学校国語教科書の表紙画(光村図書)などを手掛ける。
庭師として、「ニッケ鎮守の杜」の手入れなどに携わる。+++
植物と暮らしていると、時々、たからもののようなものをもらうことがあります。
ささやかな小さな声を聞き逃さないように。
小さなしあわせを綴っていけたらいいなと思います。
どうぞお楽しみに。 - もっと読む
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