裏庭に咲いた話 2

大野 八生

秋の扉

2021.10.07

「この季節の草花たちは、春とくらべて、しっかりしてるね」
と仕事の途中で、庭師の友人が言う。

暑かった夏を超え、急ぎ足で秋は駆け抜けてゆきます。
1年の中で庭が華やかなピークのチャンネルは、それぞれ。
たくさんの花が咲いて、緑も深く、誰が見ても美しいと思う時期があります。
それはそれでとても美しいのですが、私はその季節の終わりの頃がとても好きなのです。
花が枯れてしまうと時間は止まってしまうようですが、
花の散り際、色づいた落ち葉が土色に変わる時に彼らの命を感じます。

冬の寒さを凌ぐために、紅葉したきれいな落ち葉で土を覆うと、
その場所が絵のようになっていきます。
雨が降った後に落ちた色とりどりの葉も、
掃いてしまうのがもったいないぐらいの景色を見せてくれます。
ある庭では、紅葉の季節に落ち葉を全て掃いてしまうのではなく、
その庭が美しい景色となるように落ち葉を残して掃き清めているのだそうです。
掃除は庭師の大切な仕事のひとつですから、丁寧に心を配ってのことでしょう。

庭にいなければ見つけることのできない絵が、あちらこちらにあります。
景色は、ひとりだけでは作れないものです。
特に大きな庭というのは、たくさんの人の手で育てられてゆきます。
そして、長い年月をかけて美しい景色となっていきます。

草花を育ててくれる人、その庭を見てくれる人、そして植物たち。
庭で花を束ねてみると、掌の中に季節が広がってゆきます。
春よりもしっかりとした顔の植物たち。
またこの季節を見せてくれてありがとう。
秋の扉の出口から、冬の扉が少し見えています。


Writer

  • 大野 八生
  • 大野八生(おおの やよい)
    千葉県生まれ。園芸の好きな祖父のもと、子どもの頃から園芸に親しむ。
    造園会社などの仕事を経てフリーに。
    現在、画家・造園家として活動。
    絵本に『にわのともだち』『じょうろさん』(偕成社)『盆栽えほん』
    『ハーブをたのしむ絵本』(あすなろ書房)、『みんなの園芸店』(福音館書店).

    ほかに、多数の装画の仕事と、日高敏隆氏の著書や、小学校国語教科書の表紙画(光村図書)などを手掛ける。
    庭師として、「ニッケ鎮守の杜」の手入れなどに携わる。

    +++

    植物と暮らしていると、時々、たからもののようなものをもらうことがあります。
    ささやかな小さな声を聞き逃さないように。
    小さなしあわせを綴っていけたらいいなと思います。
    どうぞお楽しみに。

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