ヒナタノオト
作品展に寄せて
「灯す」
ろうそくを制作し、火を愉しむ。
私の携わる手しごとは、「灯す」という言葉や動作が常に身近にあります。
昨秋、『工房からの風』は「火」をテーマとした回でもあり、
春先からの準備の段階から、実際の動作に限らず内に込めたあたたかなものの例えのように、「灯す」という言葉があちらこちらで交わされていたように思います。
秋の庭では、ろうそくの灯が時を潤していくように、これまで進めてきた「手しごと」に、素材を知り、灯が宿り生まれる時を知り、関心を深めるあたたかな眼差しが降り積もっていくような印象を覚えました。
私の仕事と共にある「火」。
様々な手しごとの中にある「火」は、それぞれの作り手の元で材を固めたり、溶かしたり、やわらげたり、道具を温めたり。
ろうそく制作も然り。
そして他の手しごとと少しだけ違うのは、手元から離れた後、「火」は再び作品に火を熾し、確かに過ごした時の輪郭をwaxに刻み、陰影を生み、造形を創り出し、気持ちを和ませ、心潤し、慰め、人の心や暗闇を照らす光となる。
私が作っているのは、そんな一連を過ごして育つ道具です。
『工房からの風』のあと、再び手しごとの空間にて灯し過ごすことを楽しみに。
ろうそく:静岡:鈴木有紀子
有紀子さんのろうそくをご紹介するようになって10年が過ぎました。
当初は、工房でひとりで作られるろうそくが浸透してはいませんでしたが、今はぐんとその魅力が広がっていったように思います。
それは、有紀子さんの作品がすばらしいからということと、デンマークのヒュッゲをはじめとして、ろうそくを使うシーンが、新たに今の暮らしにまさに灯ったからでもあるように思います。
花を飾るように、ろうそくを灯す。
そう、花も枯れて姿を消してゆきますが、ろうそくの灯りと同じく、人の心を豊かに癒し、和ませ、明るくしてくれるもの。
それに加えて、有紀子さんのろうそくは、灯しつつ、ろうそく自体のかたちが育っていくのも特徴的です。
初日、土曜日の夕べには、「ろうそくの夕べ」を開きます。
と言っても、何か特別なことをするのではなく、ろうそくを灯して、ヒュッゲな時間が作れたら、と思います。
そんな時間をぜひご一緒いただけましたら。
稲垣早苗
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